切らずにできる手術なんてあるの?
当院では、腹腔鏡を用いた不妊手術に対応しております。
「不妊手術」は、健康なワンちゃん、ネコちゃんでも、お勧めしている手術です。
『望まない妊娠を避けることができる』…という目線はもはや古くなっていて、『不妊手術をすることで、動物のストレスを減らし、寿命を伸ばすことができる』ということがわかってきたからです。
「一生に一回、ずっと一緒に健康でいるために。できるだけ負担の少ない方法を選びたい。」
そのお気持ちに寄り添える方法として『腹腔鏡手術』という選択肢があります。
腹腔鏡手術は人間の消化器外科ではより一般的であるとされています。
その利点は、人間で言えば社会復帰が早い、と表現されます。
動物医療では、痛みが少ない、と表現されます。
その理由は、単純に傷跡が小さいという点がまず一つ挙げられます。
不妊手術の際には「卵巣」を処理する必要がありますので、お腹をある程度切開する必要があります。ただ、腹腔鏡手術の場合は、カメラをお腹の中に通し、専用の器具を使うため切開の大きさは一般的な開腹手術に比べて小さくなります。切開の痛みは切った傷の合計で比較できると言われますが、腹腔鏡だと3箇所穴を開けても合計2cm程度の傷になります。基本的な開腹手術よりは小さい傷で済みます。
また、こちらがメインになりますが手術時の侵襲(ダメージ)が少なくなります。
少し掘り下げた話をすると、不妊手術では「卵巣」もしくは「卵巣」と「子宮」を切除します。
この時、太い血管が卵巣にありますので、卵巣をお腹の外まで引っ張り出し、血管を切る処置を行う必要があります。
ですが、この卵巣を引っ張るときに、不妊手術中最大の痛みが患者さんを襲います。その痛みは、麻酔がかかっていても心拍数が上昇するほどです。
(もちろん、麻酔を深くすればその痛みは感じにくくなりますが、その分麻酔を深くするリスクが増えます)
腹腔鏡であれば、卵巣を引っ張らなくとも、卵巣に器具の方が近づいていくことができますので、その分手術時の侵襲(ダメージ)が減ることはいうまでもありません。
開腹でも、無理矢理にでも手術の傷をちいさくすることは出来るんですが…
…勘のいい飼い主様はお気づきかもしれませんが、開腹で不妊手術の傷を小さくするという行為は、卵巣を必要以上に引っ張る、ということになります。見てくれは良いかもしれませんが、それが動物のためになっているのか?というと少し疑問視されます。
また、どうしても小さな傷でやろうとすると視野(見える範囲)が狭くなり、手術がやりにくくなります。外科専門医の金言に「我々がやりにくいと思うというのは、動物にとっては危険、ということだ」とあります。私もそう思います。
腹腔鏡手術のデメリットについて
- 1手術が通常の不妊手術に比べ高額になる
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通常の不妊手術とは使う手術器具の種類も、量も段違いです。(価格もです…。当院で使用する機械はかなり先進的な機械もあり、100倍くらいします。)特別な機器を使用しますので、2万円程度、高額になります。一生に一回だから、少しでも良い手術を受けさせてあげたい。という飼い主さんの優しい気持ちに応えるための手術になっています。
- 2術式の習得が特殊である
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未だ動物医療において実施している病院は少なく、またちょっと勉強したらできるようになるというものでもありません。当院の獣医師は大学では低侵襲医療を研究テーマとし、卒業後は関西で腹腔鏡を得意とする動物病院に勤めておりました。また、人医療での腹腔鏡トレーニングセンターの研修に参加し認定を得るなどしております。
これまでに、ワンちゃん、ネコちゃん、フェレットさん、カメたちの腹腔鏡:卵巣摘出術、卵巣子宮摘出術、停留精巣摘出術(インコウ)、胆嚢摘出術、膀胱結石摘出術、卵管摘出術、各種臓器生体検査胸腔鏡:心膜切除術、胸管結紮術などの経験があります。
- 3手術に携わる人数が多く必要である
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通常の不妊手術であれば、2人以上いれば実施することができます。(もちろん1人ですることも可能ですがそこまで削りたくはないですね。)
腹腔鏡では4人以上いれば実施可能と考えます。スタッフの数が限られる日程には腹腔鏡は行えませんので、手術が実施できる日程は限られてしまいます。